「共に歩む」時代の到来
元内閣総理大臣
政治の運営は極
めて大切なこと
だ。また経済の発
展は、政治の安定
なしには実現でき
ない。そう考えた
場合、日中の政治
が安定することは、
この地域全体、ま
た地域のみならず
世界全体に良い影
響を与える可能性
が十分にある。幸
か不幸か、世界の
情勢は不安定要素
が年々強くなって
いると感じられる。
そんな不安定な国
際情勢の中で日中
関係がしっかりす
ることは、何より
大事なことだ。日
中両首脳のみなら
ず、両国民が望ん
で付き合えば、世
界に対して「あの地域は本当に安定している」
と示すことになり、世界全体に良い影響を与え
ると私は思っている。日中関係を安定的に保ち
ながら推移することは非常に大切で、両国首脳
と国民がそれを大切と思えば実現可能であると
思う。その意味からも、今後の両国関係は世界
から重視されるだろう。
幅広い交流と理解の時代へ
日中両国は、今の国際経済において20 %以
上のシェアを持っている。日中韓、そして東南
アジア諸国連合( A S E A N、アセアン)の安
定した発展により、あと5年もたてば世界の
30 %以上のシェアを持つことになるだろう。
忘れてはならないのが、米国経済をそこに取
り込んでいくことだ。現在、日米中三カ国の経
済規模は、合計すれば40 %ほどになろう。そ
こにアセアンや韓国を加えれば、数年後には
50 %を超えるレベルの経済シェアになる。こ
の地域だけで世界をリードできる経済の大き
さの元は、日中の安定だ。だからこそ両国関係
が重要な意味を持つ、と私は思っている。
このような大きなことを考え、日中関係を
どのような視点でうまくやっていくか工夫す
るためには、その前提として両国民が幅広く
交流し、互いに理解し合うことが大切だと思
う。だから、私は文化関係の方々にも期待して
おり、幅広い国民同士の付き合いができる関
係を作っていただきたいと願っている。「中国
改革開放40周年と日中経済貿易協力」という
大きなテーマは、両国民が幅広い関係性を構
築する時代に向かって進んで行かなければな
らない――そういう思いを示している。
約40年前、鄧小平さんが副総理として訪日
され、当時総理大臣だった父・福田赳夫と抱き
合って喜ぶ場面を、私はこの目で見た。鄧小平
さんと父のその様子は、新たな時代を開く瞬
間を100年も待ち望んでいたかのように見
受けられた。
日本に関心高まる中国
当時の中国経済はよちよち歩きの段階で、
経済規模にしても日本の100分の1にも満
たなかったと思うが、40年たった今は、日本経
済の3倍、実に日本国三つ分の経済規模にま
で成長した。たった40年と思われるかもしれ
ないが、非常に大きな意味を持つ変化のあっ
た40年であったと思う。
2 0 1 7年の国交正常化45周年、18年の平
和友好条約締結40周年という節目に際し、両
国政府や民間人の多くが、この2年間に日中
関係を何とかきちんとした軌道に乗せようと
いう思いを持って過ごしてきた。その結果、大
変前向きな状況が今、出来上がっている。中国
は、特に18年から日本に対し大変な関心を持
つようになったと実感する。この2年、私は何
度か中国を訪問したが、その都度今までと違
う雰囲気を感じた。前回の訪中では、中国の名
門大学の一つ上海交通大学を訪れ、新設され
た日本研究センターの開所式に出席した。こ
うした機関が新たにできることは、日本に対
する関心と互いに理解を深めようという気持
ちの表れのように思え、非常に感慨深かった。
大国にふさわしい行動と責任を
日中関係もこの40年間に大きく変わった
と思う。中国は今や世界第2位の経済大国に
なった。経済大国になったということは、国
の体が大きくなっただけではない。それなり
の振る舞いも必要だし、それにふさわしい行
動と責任を持って歩む立場になったというこ
とだ。
中国は18年から、対外活動においても他国
や他国の世論を意識した行動を取っているよ
うに見える。日本の一部のメディアは、今の
中国は拡張主義であるとか覇権主義であると
か書いているが、実際はそうではない。極め
て慎重かつ控えめに行動しているように感じ
られる。また、中国に対して今までとは別の
関係や見方、付き合い方をする時代の到来を
予想するような状況が起こっている。今後は、
中国がどのような考えで、どのような動きを
するかを注視すべきだろう。そして、世界にお
ける中国の行動が適切であってほしいと願う
のであれば、日本は進んで意見交換を行い、日
本の考えを述べる必要もあると私は考える。
世界に大きい影響日中関係
意見交換の基本は信頼関係だ。信頼関係な
くして意見を言い合えば、時には誹謗や悪口
になるだろうし、それは決してあってはなら
ないことだ。信頼関係を持った上で意見を述
べ合う、そんな関係が今後の日本と中国の間
で実現されることを私は期待している。こう
した関係は、日中両国が安定した政治を進め
る上で、基礎的な要件になるだろう。
日中関係の安定は、単に両国にとどまらず、
地域全体に良い影響を与えるのは間違いない
ところだ。東アジアで日中が互いに協力すれ
ば、周りの東南アジアやアジア全ての地域が、
日中を中心に良い関係をつくっていくことが
できるだろう。