劉淑䚯(りゅう・しゅくくん)
北京の環球法律事務所のパートナー・弁護士。北京大学で修士号を取得後、東京大学大学院に留学。2009年、森・濱田松本法律事務所での研修を終え、帰国。北京の金杜法律事務所、上海の方達法律事務所を経て、2018年から環球法律事務所の日本業務チーム責任者として日中間の法律業務の第一線で活躍。
(キャッシュバック)ではなく、購入
時に使用された電子商取引プラット
フォームが発行するプリペイドカー
ドの購入額分を提供するとしている。
つまり、華帝は事前に「全額返金」
とうたっていたが、購入者が店頭購入
かネットかによって、実際の返金の対
応が異なる、ということだ。店頭で「優
勝セット」を購入した人に対しては、
店頭で全額現金で返金が行われる。一
方、ネットで購入した人に対しては、
現金ではなく相応額のプリペイドカ
ードが提供されるのだ。
華帝はプリペイドカードも現金に
相当すると述べているが、この点に
ついてメディアや消費者からも疑義
が出ている。もしネットでの購入者
が対応の差に不満を持ち、虚偽広告
に当たるとして訴え出るようなこと
があれば、問題はより複雑になるだ
ろう。
日本では、現金を購入者に返還する
キャッシュバック・キャンペーンは珍
しくもないだろう。しかし中国では、
華帝がこのようなマーケティング活
動を展開したことで、華帝という企業
に大きくスポットライトが当てられ、
その良し悪しまでが取り沙汰される
事態となっている。
その一例として、今回のマーケティ
ング活動期間中、華帝の北京・天津地
区の販売代理業者(法定代表人)が別
の債務問題が原因で失踪し、財産が差
し押さえられるという事件が起きた。
また、これが広く報道され、華帝の株
価の暴落も起きた。さらに、メディア
や消費者から、そもそも華帝に「全額
返金」を実行するほどの財力や信用力
があるのか、といった疑問さえ寄せら
れるまでに至った。
また一部のメディアは、華帝の未回
収の売掛金が大きく増加しているこ
とや、近年広告費用が増加の一途をた
どり、研究開発投資を大きく上回って
いることなども大きく取り上げた。こ
のように過剰な注目を浴びる中で、今
後どのように問題の対応および解決
を図っていくか、華帝の真価が試され
ることになる。
真の信用獲得へ長い道のり
華帝は今回のマーケティング活動
において、約2900万元の返金費用
(華帝自身が返金を行う金額)と少額
の広告費だけで、他のスポンサー企業
をはるかにしのぐ広告効果を上げた
とも言える。その点では、損失がない
どころか、「エビでタイを釣った」とも
言えるだろう。また、こうした華帝の
マーケティング活動を「教科書に載
せるべき戦略」として、もてはやすメ
ディアもある。今後、後追いする企業
も出て来るかもしれない。しかし、今
回の華帝のようなマーケティング活
動は、仏代表チームの試合結果に直接
的な影響を受けている。その結果、実
際には射幸心をあおるような、極めて
ギャンブル性が強いものになってい
る。ここに法的リスクが潜んでいるこ
とにも注意が必要だ。
一般的に、スポーツと関連するマー
ケティング活動は、スポーツの持つ健
全なイメージやクリーンさ、精神性を
製品と結び付け、消費者に対し信頼性
の高い製品イメージを構築し、長い時
間をかけて信用を勝ち取っていくも
のである。ところが、今回のような「ギ
ャンブル式」マーケティング活動で
は、人々が興味を持つのはその製品や
ブランドではなく、「ギャンブル」の勝
ち負けや返金額がどれぐらいになる
かといった結果である。
今回のマーケティング活動で、華帝
が一時的に非常に高い知名度を獲得
したことは事実だ。しかし、これは消
費者の信用を勝ち取ったことを意味
するわけではない。真の信用とは、苦
心を重ね、企業の管理水準や製品の質
を向上させることによって初めて勝
ち取れるものであり、華帝の前には、
これからも長い挑戦の道のりが待ち
受けている。