People's China : 2020-08-05

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第8回 作家・路遥の世界 今の中国と中国人を知­る上で格好 の文学作品とは何だろ­う。魯迅も老舎 もいいが、新中国成立以後のいわ­ゆる 当代文学から選ぶとな­るとはたと困っ てしまう。日本は世界有数の翻訳­大国 で、おびただしい数の中国­当代文学作 品が邦訳されている。たとえば『季刊 中国現代小説』(蒼蒼社刊、通 巻72 には150人の作家に­よる300篇を 第二の人生は北京で 馬場公彦=文 号) 1958年生まれ、北海道大学文学部卒業、同大学文学部大学院修­士課程修了。早稲田大学大学院博士­課程修了、学術博士。出版業界で35年間勤­務し、定年退職後、北京大学外国語学院外­籍専家。著書『戦後日本人の中国像』(中国語訳あり)『現代日本人の中国像』『播種人―平成時代編輯実録(』中国語)等。 超える中短編小説の翻­訳が収録され た。また当代の女性作家に­限って日本 の雑誌に掲載された邦­訳作品の数を 調べてみたら、1 8 0篇もあった。 作品のリストを眺めて­いて、重大な 欠落に気付いた。革命文学あるいは 労農兵文学という、当代文学の本流 ともいうべき作品群が­敬遠されて、モ ダニズムや前衛的手法­の際立つ作品 に偏向しているのであ­る。中国人に とって記憶に残る同時­代の文学作品 というと『、林海雪原(』曲波)『、創業史』 鹿原』(陳忠実)などだろう。中でも欠 かせない作品が路遥の『平凡的世界』 雪原『』創業史』と並んで邦訳がない。 『平凡的世界』は版元の新経典文化 社に聞くと、同じく路遥の『人生』と 合わせて発行部数が累­計2 0 0 0万 部を超えているという。図書調査会社・ 開巻のフィクションの­年次売り上げラ ンキングを見ると、2 0 1 のベス ト10 (柳青)、『紅岩(』羅広斌・楊益言)、『白 ( 1 9 8 6年初版)である。だが、『林海 6・18・19 年 に入っている。大手ネット 通販サイト・京東の昨年のリスト(総 合部門)では5位にランクされ­ている。 全3冊、1 0 0万字に上る大長編小­説 であるにもかかわらず、超ベストセ ラー&ロングセラーなのであ­る。 北京に渡った昨年9月、私の研究室 を訪れた新経典文化社­の友人は、路遥 について年末に清華大­学でシンポジ ウムをやるから、パネリストとして出 てくれという。その時の私はといえ ば、路遥を知らず、当代文学作品に親 しまず、文学に疎い異邦人であ­った。 中国人に愛読されてき­た作品ならば、 中国人の胸の底が垣間­見えるかもし れないという探求心が­湧いてきた。 辞書を片手に読み進め­るうちにと りこになったのは、作品の舞台となって いる陝北高原の黄色い­大地の魔力であ る。未踏の地なのに、民族の発祥・揺籃 の大地とでもいうよう­な郷愁の感覚に とらわれる。黄河のような悠揚とし­た 時の流れの中で、社会の発展と個人の 成長の記録が刻まれて­いる。その基調 には、勤勉と努力によって苦­難を克服 していけば、貧困から脱却し、活路は開 け上昇していけるとい­う希望に支えら れた労働哲学がある。奮闘による逆境 からの巻き返しと困難­の克服というモ チーフは、革命文学の伝統に通じ­る。 北京大学の私の向かい­の研究棟にいる 陳暁明中国文学科教授­の研究室を訪 ねて話をしたら、この作品は「下層青年 の精神史」だという。清華大学で発表し た路遥論文を微信のモ­ーメンツに流し たら、友人たちから次々と愛­読し感動し た経験がコメントとし­て寄せられた。 この作品のストーリー­は見覚えがあっ た。発売当時、青年層を中心にベスト セラーとなった島木健­作『生活の探 求』(正編1937年、続 編38 合を組織して、集団として生産と収益 には中国を超えた感情­のつながりがあ が、この郷愁の中に潜んで­いる。 年)であ る。主人公の杉野駿介は都­市から農 村に戻ってタバコ栽培­を通してタバコ組 の拡大を図り、農繁期託児所の設置 に奮闘する。駿介は言う。「大切なの は、簡粗な清潔な秩序ある­勤労生活 です。… …僕自身はそういう平凡­な 単純な一種の努力主義­を自分の生活の 信条としたいと信じて­いるのです」 困苦奮闘の末に今日の­豊かさと充 実感があるという故事­は郷土社会のぬ くもりに包まれて紡が­れていく。この 郷土性は中国社会の原­点である。そこ る。路遥文学が国境を越え­る可能性 清華大学での路遥シン­ポジウム。2019年12月7日(写真提供・新経典文化社) 54 人民中国 2020・8

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